「いや…何か入りづらかったから…」 
千佳はトレイを置いて座ると、頬を掻いてごまかすように笑う。 
「いつから見てたの?」 
「二人があおむけになったあたりから、かな」 
由美の顔が真っ赤になる。 
それはつまり、由美の告白が千佳にも聞かれてしまったという事だ。 
由美は千佳にずいっと近づき、問い掛ける。 
「千佳…何で見てて、助けなかったのかなぁ?」 
由美は笑顔だが、目は全く笑っていない。 
「まぁまぁ、由美ちゃん。千佳ちゃんの好きな人も教えてもらえばいいじゃない」 
麻美のその提案を聞き、由美はそれだ!という顔をした。 
「うーん。じゃ、それで許してあげる。千佳、誰が好きなの?早く言わないと…」 
由美がちらりと麻美の方を見ると、麻美は指をわきわきと動かしてみせた。 
「えっと……まだいないよ」 
千佳のその返答を聞き、二人は訝しげな目を向ける。 
「正直に言わないとズルいよ、千佳ちゃん」 
「そうだよ。私だって言ったんだから」 
しかし、千佳は問い詰められても態度を変えない。 
「いや、隠してるんじゃなくって…私、運動ばっかしてるじゃない? 
 だから男の子にあんまり興味無くって」 
嘘をついているようには見えない。 
それに千佳がポーカーフェイスをできるような人間でない事を知っているので、 
二人は納得せざるをえなかった。 
「それじゃ、どうしよう?これじゃ、一人だけ不公平だよ」 
「…あ、そうだ。私を助けなかった罰として、麻美に思いっきりくすぐられるってのはどう?」 
「あ、それでいいよ」 
千佳は余裕ありげに即答した。 
「いいの?麻美、凄く上手だよ?」 
あまりにあっさり受け入れられたので、提案した由美が面喰らってしまう。 
「いいからいいから。ほら、麻美ちゃん。どうぞどうぞ〜」 
千佳は自らベッドまで行くと、仰向けに寝転んで麻美を催促する。 
「麻美。手加減しちゃ駄目だよ」 
「うん。こんなに余裕〜って感じだされたら、麻美だって本気出しちゃうよ」 
麻美はひょいと千佳の腰のあたりに跨がり、脇腹に手を伸ばす。 
こちょこちょこちょ… 
「あれぇ?」 
こちょこちょこちょこちょ… 
「何で笑わないの〜!?」 
麻美の手はしっかりと脇腹をくすぐっているのに、千佳の表情は全く変わらない。 
「私、くすぐられるのって全然平気なんだ〜。だからいくら麻美ちゃんが上手だってなんともないよ」 
千佳はむきだしになっている麻美の腋に手を伸ばし、指先で軽くくすぐる。 
すると麻美は「ひゃんっ!」と甲高い声をあげ、千佳の体から飛びのいてしまった。 
麻美はいつも仕掛ける側だからなのか、くすぐられるのには免疫がないようだ。 
「これじゃあ罰にならないよ〜…麻美、他に何かないの?」 
由美は麻美に尋ねたが、そう都合良くは考えつかなかった。 


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