「えっと…耳かしてね」 
千佳は由美に近づくと、何事か耳打ちする。 
「まず…」「ふんふん」「それでね…」「あ、いいね〜」 
二人がごにょごにょと内緒話を続けるのを見て、麻美が頬を膨らませる。 
「ちょっとちょっと。千佳ちゃん、私は〜?」 
由美への耳打ちを終えると、千佳は麻美の隣に座った。 
「早く〜」 
「はいはい。耳かりるよー」 
千佳は麻美の横顔に顔を近づけ、口を開くと― 
カプッ!と耳たぶを噛んだ。 
「ひっ!?」 
完全に意表をつかれ、思わず千佳を突き飛ばす。 
「あはは。引っ掛かったー」 
千佳はけらけら笑って身を起こした。 
「何度も話すのめんどくさいから、あとでね」 
「何それ。今教えてよー」 
麻美は耳をさすりながら食い下がるが、二人は「まぁ、アレだよ」「ね〜」と、のらりくらりとはぐらかした。 
「む〜。まぁいいや。あとで教えてよ」 
「分かってるよ…あれ、どこ行くの?」 
千佳は、コップを置いて立ち上がった麻美に声をかける。 
「トイレだよ」 
「あ、私もいく」 
「私もー」 
三人は連れだってトイレに行き、用を済ませて部屋に戻ってきた。 


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